インタビュー
「株式会社 木村板金工業」

代表取締役社長 木村 孝貴

経営者として成長していきたい、と思ってらっしゃる方へのメッセージ

ここまで企業理念についてお聞きしてきましたが、それが揺らぐことがありながらも、経営者として、社長として心がけておられる事や、ここだけは譲れない事、もしくはここだけは何度会話を重ねても理解してもらいたい事、ということはどんな事でしょうか。
これから経営者として成長していきたい、と思ってらっしゃる方へのメッセージ、という意味合いも込めてお聞かせいただけますでしょうか。

 経営の仕方は皆それぞれであって良いと思います。それぞれがそれぞれの考えの上で会社を経営してるので、否定はしない。
でも信念、理念はこれなんだという信念は絶対に通してもらいたいと思います。経営者である以上は経営を傾かせるような受注とか、お客様とのつきあいとか、白黒をつけて選択していかなくちゃいけなくなる。
どんな仕事でも取れれば良いとかじゃなくて、お客様にきちんと説明して、うちの会社はこうだよという信頼で請ける仕事をやっていかなくちゃいけない。
いろんなトラブルもあるので、やれば赤字になっちゃうのを分かってても、取ればいいやって、付き合いだからって、なんでも来たやつをやっちゃう。
それはやっぱりはっきり言わなくちゃいけない。
安請け合いなんかも営業戦略としてやってなら、それはそれで良いんですけどね、でも、経営者として、せっかく職人さんがいて、仕事してもらってるのにね。

職人さんにどんなに良い仕事をしてもらっても、それが赤字の仕事だったらガッカリしますもんね。
当たり前のことかも知れませんが、それが付き合いの中全体でペイできるという腹づもりだとか、そのあたりが経営者として見えているかどうかは重要ですね。それぞれの受注に対していくらの利益かを理解した上で、信念をもって請けるか、断るか、そこがまずは見えていないと。

 経営者はやっぱり原価管理/原価意識ってのがしっかり頭に入ってなきゃいけない。
まぁ屋根は昔からこのくらいだったから、材料も最近値段上がってきたから、ちょっと上げてこれぐらいにすればいいか、みたいな、原価も何も分かってないのに、単価だけ決めてお客様に見積出したら絶対ダメ。
そこでお客様から、前回このくらいでやってくれたじゃないか、みたいなことを言われても、自分はあんまり解かっていないもんだから、受注できるならじゃあそれで、でも材料上がったらしいけど、まぁ大丈夫だろう端数切っておきます、とかね。
そういうおかしいことやっちゃう経営者はまだまだだと思いますよ。
まず、原価管理が出来ないといけません。

 私が社長になった時に原価管理の中で一番細かったのは、釘1キロの箱の中に何本入ってるか。ひと箱1,000円だとしてね、1,000本はいっていれば一本1円なんだけど、何本入ってるのか、1軒この家やるのに釘何本使うのか、そこまで計算してやりましたよ。
当然、そんな管理をしても五本十本5円10円の世界なんだけども、社長である以上は、そこまで突き詰めて原価管理やってみたらいいよ、って思いますね。

一旦そこを突き詰めてみて、自分の中で、ああこの物件はこうだ、これぐらいの釘の本数か、仕入かと、そういうのがわかっている状態で、お客様と相対しなければいけませんね。

 今なんて、収まりが悪いとコーキングで何でも防水しちゃうんだけど、何本使ったかなんていちいち頭に入ってないよね。でも、経験上わかるじゃないですか、だいたいこの大きさならこれくらい使うって。それも原価管理の中に入れておくべきですよ。
今だと10本使って6,000円くらいか。6,000円ぐらい関係ないよ、じゃなくて、それがやっぱり足引っぱっちゃう。それが頭に入って、解かっているか解かっていないかが大きな差を生む。100件やったら6万円どっかいっちゃうんだから。

そういう積み重ねは大切ですね。
6万円あったら従業員さんのお茶菓子や、どこか一杯飲みに行けますもんね。
しっかりと原価を把握して管理できるか。
その上での戦略となれば、一見対極にあるような、大きな理念というものから、釘一本の原価までが一本に繋がって、初めて真の理念といえる。管理できていなければ理念に意味はありませんが、理念がなければ一本の釘の管理にも至らない。
この行動と理念の一致が経営戦略として大切な事ですね。

 私がこの会社に入って、ある程度お金の面を任せられるようになった時に、物件ごとでどれだけ釘とか材料を使って、今日は何人どこの現場へいったとか、日報とかを見て毎日つけておけよって先代に言われました。
人の動きは一番大事な原価管理なので。
あるレベル、技術を持った職人さんが、何日どのくらい。普通の手元みたいな人も何人そこについていったか。使った材料と一緒に全部大学ノートにつけてました。
何でもそうだけど、根本が解かってないとね、経営者は。

 ですから、今でも原価管理は自分でやってますよ。見積りする時に屋根材何キロ使うとか。今はね、良い見積ソフトを皆さん使っていると思うんだけども、表紙の鏡をコピペして使っている人もまだまだいるんじゃないかな。
かっこいいからじゃなくて、その中身が一番大事。その中身がやっぱり財産ですよ。

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